緋色流 レビュー&考察

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Key作品考察 名雪が持っていた観鈴&渚とは違うもう一つの"黄金の心"

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一応前回の続きなのでこちらの記事を読んでもらえると幸いです。

Key作品考察 観鈴と渚が持っていた"黄金の心" 2人にあって他ヒロインにないものとは→http://hiirow.hatenablog.com/entry/2018/03/12/132410


前回の記事を要約すると、困難な状況下でも純粋な心を保ち続ける人間は、例え純粋な心によって愚かな決断を下しても、その生き様こそが美しい。これこそが"黄金の心"であり、観鈴と渚の共通している部分である。

前回書いたので、"黄金の心"の説明は手短に済まそう。

黄金の心とは、「純粋な心を保ち続ける女性が、立て続けに"理不尽な不幸"に直面し、純粋な心によって愚かな決断を下す」という流れを"美しい"と言わんばかりに作っている作品。監督は、"鬱作品"を作ることでお馴染みのラース・フォン・トリアー

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前回の記事では、"黄金の心"に当てはまらないヒロインの名をいくつかあげた。棗鈴、仲村ゆり、友利奈緒の3人だ。あの記事では、比較対象として意図的に外したヒロインがいる。そう、今回考察していく"水瀬名雪"だ。

もしかすると、前回の記事を読んだ方の中には、「あれ、黄金の心って名雪も持っているんじゃないか?」と思った人もいるかもしれない。

確かに名雪は、理不尽な状況下でも純粋な心を保ち続けている。

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そもそも名雪目線でKanonを捉えると、"名雪自身は何も悪くない"のに対して、"名雪が「理不尽な不幸」に遭遇することが多い。これは、トリアーの「黄金の心三部作」及び、観鈴や渚と同じパターンである。


例えば7年前の雪うさぎの件。

どこからどう考えても名雪は悪くない。むしろ名雪の"純粋な心"が、あの雪うさぎを作ったのだ。残念ながら、主人公の祐一に拒絶されてしまう。名雪の"純粋な心がもたらした理不尽な結果"だろう。

祐一が街から去っても、名雪は純粋な心を保ち続けていたため、彼に手紙を出していたが返事はない。名雪が純粋な心を失っていれば、相沢祐一が"どういう人間"なのかを学び、彼に期待はしなくなるだろう。

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秋子さんの事故もそうだが、基本的に名雪は悪くないのだ。しかも、名雪は多くを望んでいるわけではない。彼女の場合、秋子さんと祐一さえいれば幸せは満たされている。特に秋子さんは別格で、理不尽な出来事に直面しても秋子さんがいれば純粋な心を保ち続けることが出来たのだろう。

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観鈴&渚との違い」


分かりやすく"黄金の心"を描いている観鈴&渚と、名雪は何が違うのか。それは"誰かのために行動しているか、自分のために行動しているか"の違いだろう。

思えば名雪の行動は「祐一が困っているから、私も手伝わないと」が多い。純粋な心によって、そういう行動を取っていたのかもしれない。その一方で、観鈴と渚は純粋な心によって、愚かな決断を下していた。しかもそれは、"誰かのために"ではなく、"自分自身の願いのために"である。"観鈴の往人と遊びたい"や、"渚の汐を産みたい"などの"明確な意志"があって行動をしていた。そもそも名雪観鈴や渚ほど愚かな決断を下していないのではないか?

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これこそが名雪が"黄金の心"を持っているか判断しにくい最大のポイントだろう。つまり、名雪は"純粋な心"を持っていたものの、とりわけ"自身の願いを優先にして愚かな決断を下す"というのがないように思える点だ。


名雪自身は、祐一と秋子さんがいればそれなりに満足しているのかもしれない。もっとも、祐一が他ヒロインと絡んでいる現場を見ておきながら、特に突っ込まない辺り、それはそれで純粋な心が愚かな決断(祐一を尊重するということ)を下していると言えなくはないが・・・


多分、名雪からすれば祐一を優先しているわけではなく、今の関係を保ち続けることを意識していたんじゃないだろうか。現状維持だ。

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それに対しトリアーの「黄金の心三部作」に登場する女性キャラクターは、関係が悪化することをそれほど恐れていない節がある。観鈴や渚もそうだ

一体渚は何を考えていたんだろう。出産で自分が死ねば、朋也と渚の関係はそこで終わる。関係が破滅しようが純粋な心が愚かな決断を下す。

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結局は、名雪も"黄金の心"を持っていると管理人は考えている。困難な状況下でも純粋な心を保ち続けているし、時には純粋な心が愚かな決断を下しているからだ。他のヒロインのことなんて放っておけば良いものの、現状を悪くしないように名雪は愚かな決断を下す。やはり観鈴や渚と同じく、この流れが名雪の"良さ"でもある。

観鈴や渚との違いは、名雪は"保守的な黄金の心"を持っていることだろう。攻めるに攻めた"革新的な黄金の心"を所持しているのが観鈴と渚だ。


もちろん、常に保守的というわけではない。秋子さんが事故にあった時、7年前から名雪が溜め込んできた様々な思いが溢れ出てくる。あの展開は決して保守的とは言えないだろう。

ただ、時々名雪から垣間見られる"自己犠牲"な部分は、"保守的な黄金の心"が影響しているのかもしれない。

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余談だが、トリアーの「黄金の心三部作」の一つであるダンサー・イン・ザ・ダークでは、遺伝性の病で視力が失われつつある母親(主人公)と、母親からの遺伝によって、既にメガネをかけた息子が登場する。

これだけでも理不尽なような気がするが、本編中盤辺りで息子の目の治療のために貯めてきたお金を親しかった友人に騙され、盗まれてしまう(元々貧しい設定)。この展開までは多くのことを望まず、名雪と同じように"保守的な黄金の心"だったのだが、これ以降は、なりふり構っていられなくなったのか、主人公は"革新的な黄金の心"に変わる。結局、お金を盗まれてからは"怒涛の不幸ラッシュ"、"黄金の心"に変化が訪れようが、この映画の結末は一見すると最低最悪でしかない。

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とはいえこれを踏まえると、今後名雪に理不尽な不幸が降り注いだら、保守的から観鈴や渚のような革新的な黄金の心に変わる可能性もあるのだ。


何にせよ、名雪が持っていた"黄金の心"は観鈴や渚とは違っていても、その姿は観鈴や渚と同じように美しかっただろう。また、同じ"黄金の心"でも、観鈴&渚みたいに"自分の意思や願いを優先にする"というわけではなかったのかもしれない。

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